テロ支援国家指定解除にからむ最近の日米朝の動き

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日米議員会議(日テレNEWS24より借用)

日テレNEWS24の6月18日の報道 『初の日米議員会議、北朝鮮問題など意見交換<6/18 13:20>』 は、
 日本の国会議員団が17日、アメリカ・ワシントンでアメリカの上院議員らと初めての「日米議員会議」を開き、北朝鮮の拉致問題などについて幅広く意見交換した。
 この会議は、議員の交流によって日米の相互理解を深めることが目的で、自民党・中山太郎元外相を団長とする議員団がワシントンを訪れ、第1回の会合が開かれた。会議では、沖縄のアメリカ軍基地問題などについて幅広く意見が交換されたほか、北朝鮮に対するアメリカのテロ支援国家指定問題について、アメリカ側から「指定の解除については慎重に取り扱うことが必要だ」との考えが複数の議員から表明された という。
と述べている。
この日米議員会議への日本側の参会者には、勿論、山崎拓氏のような日朝国交再開・賛成議員は含まれていない。日本側議員には前原誠司民主党副代表も含まれていたようであり、その他の日本側参加者は、テロ支援国家指定解除に批判的な議員ばかりであったろうと思われる。従って、当然、日本側議員からは、テロ支援国家指定解除に反対の意見が開陳されたことであろう。そして米国議員がこれに賛同したと言うのであろうか。

筆者はそうは思わない。「指定の解除については慎重に取り扱うことが必要だ」と言うのは米国議員の本来の意見であろうと考える。米議会には、伝統的に世界の人権問題について、それを厳しく監視し、批判する精神が受け継がれており、その精神に立脚した上での発言であろうと思う。さらに北朝鮮を日米安全保障上の観点から容易に信用できない危険国家と言う考えが払拭できなかった結果の米議員の意思表示であったと考える。

このように日米の議員、特に米国の議員によって、北朝鮮に対するアメリカのテロ支援国家指定の解除については慎重に取り扱うことが必要であることが指摘されていながら、何故、ブッシュ政権はテロ支援国家指定解除を急ぐのであろうか。実際に、これまで日本から、再三再四、北朝鮮のテロ支援国家指定解除の条件として日本人拉致問題の解決を条件に入れるように働きかけたにもかかわらず、米国はこれを拒否した。

その顕著な米国の意思表示は、ライス国務長官による拒否である。しかもこれは、昨年、安倍前首相が米国のブッシュ大統領を訪問し、拉致問題を協議している最中で、陪席したライス国務長官が拒否の発言をした。考えてみれば随分失礼な話である。一国の総理に対して外国の格下の外務大臣が返答したのである。しかもその理由は次のようなものであったと記憶している。
(1)米国の市民が拉致されたわけではないので、日本国民の拉致は指定解除の阻止の対象にはならない。
(2)テロ支援国家指定の根拠となったラングーン事件(1983年10月8日)や大韓航空機爆破事件(1987年11月29日)は20年の時効を超えた。

どうやら米国の刑法では殺人事件の時効は20年ということなのだろうか。それとも米国の「テロ支援国家指定」の時効は20年と定められていたのであろうか((参考1)参照)。とすれば、ライス氏はその法律の遵守に忠実であったということになるのかもしれない。それはともあれ、米国議会や同盟国日本の反対まで無視してテロ支援国家指定を解除しようとする米国務省の、特にライス国務長官の独走は、どうにも理解できない。彼女は頑として日本人拉致被害者の開放はテロ支援国家指定解除の条件にしたくないのだ。

ライス国務長官の決意を裏打ちするように、バシュボウ駐韓米大使は、5月14日、韓国紙ハンギョレとのインタービューで、日本人拉致問題の解決が、米国政府による北朝鮮のテロ支援国指定解除の前提条件ではないとの見解を重ねて示したそうである。日本国民及び日本政府の申し入れを無視した言及である。同大使は、日本の要求は北朝鮮に伝えてはあるが、飽くまでもテロ支援国家指定解除の要件としては、核計画の申告を含む昨年10月の6ヶ国協議の合意結果の履行如何により、日本人拉致問題は条件としないと強調した。

なお、(参考2)に示す 6月11日の産経新聞の報道 『米の働き掛けで北朝鮮が声明 テロ指定解除へ条件整備 2008.6.11 12:47 』 によれば、マコーマック米国務省報道官は10日の記者会見で、北朝鮮が外務省声明で『反テロの立場をあらためて表明した』ことを歓迎している。さらに北朝鮮がこの声明を出すように米国が指導したことを述べた。そしてこの声明は、北朝鮮のテロ支援国家指定の解除について、米議会の理解を得るための必要な手順だと説明している。

以上のように、情況は、北朝鮮のテロ支援国家指定解除に向けて着々と進んでいると言うことである。近く、北朝鮮が6ヶ国協議の幹事国・中国に提出する核計画の内容の審査如何によって、テロ支援国家指定が解除されることになる。

米国のクリストファー・ヒル国務次官補は、最近、北朝鮮のキム・ゲガン外務次官と会って、日本人拉致被害者開放の重要性を説明し、日本人拉致被害者の釈放と帰還を説得した。勿論、日本政府の強い要望に答えたものであろう。 その結果、日本側代表の斎木昭隆外務省アジア大洋州局長と北朝鮮側代表の宋日昊・国交正常化交渉担当大使らが、6月11日と12日にわたって協議することになった。

この協議を受けて、政府は、北朝鮮側は日本人拉致問題の再調査を約束し、日航機「よど号」ハイジャック関係者の日本への引渡しに向けて合意したと発表した。さらに政府は、日本側は見返りとして制裁を一部緩和し、人的交流やチャーター便の往来などを認めると発表した。この報道は6月14日の朝日新聞の第1面の記事によっている。

北朝鮮は過去の日本とのしがらみはどのようであったか知らない。しかし国家の主権を侵して、日本人を拉致し日本に帰国させないと言うこと自体、世界的な常識、人道上の問題として許せない行為である。日本人拉致問題の再調査は無条件に行なうのが当然である。さらに「よど号」のハイジャック犯を引き渡すと言うが、この事は日本にとってそれ程、ありがたいことではない。米国は北朝鮮のこの行為をひどく高く評価しているようである。ハイジャックと言う日本赤軍の犯した行為が、米国にとっては重大なテロ行為に見えるらしい。この辺が、米国と日本との大きな感覚の相異である。また、北朝鮮は『日本人拉致問題の再調査』と言っているが、この言葉自体が問題である。再調査して見たが、調査の結果、何も発見できなかったと言うこともありうることを示す曖昧な表現である。もっと悪く言うと、『拉致された日本人はいないかもしれないが、調べてみる』と言っているように聞こえる。北朝鮮からの真剣みが見えてこない。この言葉にうっかり乗って、制裁を一部緩和すると言う。

しかし一部緩和するその内容を、見て愕然とした。この記事は同じ日の朝日新聞の第2面にあった。なお、(参考3)をも参照されたい。緩和どころではない。殆ど制裁解除の状態である。家族会の人々や、中山恭子補佐官や鳩山民主党幹事長が批判をするのがよく分かる。北朝鮮側の拉致問題解決への態度は、今のところちょっとしたリップサービスだけで、何も誠意が見えてこない。北朝鮮の発言は、日本を意識してと言うよりも、米国を意識して発言している。

北朝鮮にはこれまで散々、引きずりまわされ、嘘で固めた誠意のない小馬鹿にしたやり方に、日本は煮え湯を飲まされて来た。どうやら「日朝国交再開・賛成議員」の会とやらが、曲者である。どうもこの会の会長は単身で北朝鮮へ行くことが好きなようであるから、どうやら金色のお土産でも貰っているのではないかと思いたくなる。国会議員の中が北朝鮮に対して意見が割れているのが、そもそも問題である。

北朝鮮に対しては、日本全体が結束して強い態度で当たるべきである。韓国が470人も北朝鮮に拉致され、主権を踏みにじられているのに、韓国の拉致問題解決を北朝鮮のテロ支援国家指定解除の条件にしようとして、米国に働きかけないこともおかしい。韓国は竹島などではひどく間違った主権の主張をするのに、拉致問題については全く主権の主張をしない。韓国人は、主権に関する感覚が相手によって変るのかもしれない。

この頃、また煮え湯を飲まされるような口惜しさを味わわされるのではないかと、何となく気分の冴えない日が続いている。

**************************終わり*****************************

(参考1)日本国刑法
1949年(昭和24年)1月1日から2004年(平成16年)12月31日まで
第250条 時効は、次のの期間を経過することによつて完成する。
1. 死刑にあたる罪については15年 (以下略)
2005年(平成17年)1月1日以降
第250条 時効は、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
1. 死刑に当たる罪については25年 (以下略)

(参考2)米の働き掛けで北朝鮮が声明 テロ指定解除へ条件整備2008.6.11 12:47
 マコーマック米国務省報道官は10日の記者会見で、北朝鮮が外務省声明で反テロの立場をあらためて表明したことを歓迎し、北朝鮮側と「このこと(声明)について話してきた」と、米側が声明を出すよう働き掛けたことを明らかにした。
 北朝鮮のテロ支援国家指定解除にあたり、米大統領は議会への通告で「指定国が今後、国際テロを支援しないと保証したこと」などを証明する必要がある。同報道官は「(指定解除に向けた)行程の一環だ」と述べ、米朝が協調して解除手続きの条件を整備してきたことを示唆した。
 またアービジュー国務副次官補(東アジア・太平洋担当)は10日、声明に関し、「行動と一致しなければならない」と記者団に述べ、北朝鮮側の出方を見守る考えを強調。一方で「(テロ指定解除で)前に進むためには、政策を率直に語る声明が必要だ。その意味では前向きな進展だ」と評価した。(共同)


(参考3)「不幸な過去を清算」…日朝交渉、北朝鮮の報道文 06/13 21:50更新
北朝鮮が13日、朝鮮中央通信を通じて発表した日朝協議の結果に関する報道文の内容は次の通り。
 日朝平壌宣言に従って不幸な過去を清算し、国交正常化を実現するための日朝政府間実務協議が2008年6月11、12の両日、北京で行われた。
 双方は相互の関心事となっている懸案問題の解決に関する真摯(しんし)な協議を行い、次のようにすることとした。
 ▽北朝鮮は拉致問題の再調査を実施する。また、北朝鮮は『よど号』関係者問題の解決のために協力する用意を表明する。
 ▽日本は今回、現在取っている北朝鮮に対する制裁措置の部分解除として
(1)人的往来の規制解除
(2)チャーター便の規制解除
(3)人道的支援関連物資輸送を目的とする北朝鮮国籍船舶の入港許可を行う。
(共同)


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この記事へのコメント

2008年06月19日 18:11
 ブッシュはイラクをあきらめたんでしょうね。イラクはオバマに引き継ぐ。すると、無能の共和党大統領の評価になってしまうから、北鮮のテロ国家指定を解除した大統領というレッテルだけを欲しいのでしょう。筋書きは、おそらく北京にゴーストライターがいるんでしょう。脚本も監督も胡錦濤で、ブッシュは主役を演じているだけかも。
 もうひとつ、悪役は、日本かも。日米中の三角関係のなかで、貧乏くじを引かないシナリオに書き変える努力を…あの総理じゃぁ無理でしょうね。
2008年06月22日 16:15
罵愚 様
コメントのお返事が遅くなりました。
結果のみで、人の業績を評価する傾向は改めねばなりません。名目上の結果さえ良ければ、その途中の経過は問わないというのでは正しい評価とは言えません。
世の中にはこの辺を履き違えている人が意外に多いのではないでしょうか。
前国連事務総長のアナン氏は、太平洋戦争の終結を早めるために、トルーマン・米大統領が原子爆弾を使ったことを賞賛しました。この例などは、結果を求めるために使われた途中の手段が人道上許すべからざる犯罪行為であるにもかかわらず、それを褒め称えた事例です。
今回も米国は、北朝鮮に核放棄をさせるために、日本人の拉致という人道上許すべからざる犯罪行為を無視しようとしているように見えます。
人道国家、人権国家を標榜する米国が意外とそれを無視した行為をすることは、不思議なことです。

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